『かおり風景100選』


 わが袖にむなしき浪はかけそめつ
 契りもしらぬ床の浦風
 畳ヶ浦は古くから、琴高磯、床ノ浦とも呼ばれ、和歌にも詠まれてきた。
 日本海に突出した標高約50メートルの丘陵先端に位置し、波に侵食され、約25メートルの海食崖と呼ばれる断崖と、約5万平方メートルの波食棚と呼ばれる平らな磯が広がっている。
 この広大な波食棚には、縦横に規則正しく走る小さな亀裂がみられ、これが畳を敷き詰めたようにみえることから、「畳ヶ浦」または「千畳敷」と呼ばれるようになった。
 畳ヶ浦の岩場には、無数の貝の化石や鯨骨の化石などをみることができ、約1600万年前の海の浅瀬への想像をかき立てる。さらに波の浸食によってできた腰掛状の丸い岩(ノジュール)をはじめとする、多くの断層や海食洞は「天然の博物館」と呼ぶにふさわしい。
 この自然に恵まれた畳ヶ浦は、海底が隆起してでき上がったものであり、1932年には国の天然記念物に指定されている。地元では「たたみ」という愛称で親しまれ、地元小学生が磯の生物を観察する場所として、また県外から多くの観光客を迎えている。
 磯に生息する魚介、海藻類、富んだ海岸線や水平線に沈む夕日など四季折々の日本海の情緒あふれる風景、「いか」「わかめ」など季節の海産物の香り、そして磯のかおりが人々にやすらぎを与えてくれる。